月に吠える

 私の生活習慣で数少ない自慢は「徒歩通勤」と「断食」だ。
 「徒歩通勤」は忘れもしない2005年2月1日から始めた。めっちゃ寒い日だった。発作的にというか衝動的に始めた。“健康のため”ではない。“税務署と闘う根性をつけるため”とは言ってみたものの、これは後付けの理由だ。それでも、もう来月でまる3年になるのだから自分で言うのもなんだが立派なものだ。私の“出たとこ勝負”の人生のなかでも、これは大ヒットである。


 どうせ歩くなら、といろいろ工夫もした。そのなかで役に立っているのが“ゆるウォーク”である。これは以前にもお知らせした高岡英夫氏の提唱する歩き方である。これがなかなか具合がよろしい。
 体を“ゆるゆる”にして歩く。腕はプランプランに揺らす。天から糸でつり下げられているようなイメージで体中の力を抜いて歩くわけだ。体の軸(センター)をイメージして歩くのがコツである。体がほぐれると心もほぐれる。爾来、私は人生が苦にならなくなった。他人からは“たるんでいる”ように見えるかも知れないが、私は“ゆるんでいる”つもりで生きている。


 ゆるんで歩いていて“はっ”と気づいたことがある。それは地球の重力。自分の体が地球の中心に引っ張られているという感覚。「なぁ〜んだ」と思われるかも知れないが、私にとっては新鮮な驚きであった。リンゴが落ちるのを見てニュートンは引力を発見した。ニュートンに先を越されてしまったが、今の私は自分の体をとおして地球の引力をはっきりと実感できる。
 小さい頃、オーストラリア人やニュージーランド人はなぜ地球から落っこちないんだろうと疑問に思っていたが、今でははっきりと分かる。オーストラリア人やニュージーランド人も地球に引っ張られているのだ(宇宙には上も下もないのだけれどね)。
 それと地球が自転しているのであれば、その遠心力でなぜワシらは宇宙へ飛ばされないのだろうと思っていた(なんせワシら1400Km/hの速度で振り回されておるわけだ)が、この疑問も解決した。地球の重力はすごいのだ。めっちゃくちゃ強く引っ張られておるわけだ。目に見えないからといってバカにしてはいけない。宇宙のパワーはすごい。あなどれない。


 宇宙のパワーを実感した私が次に考えたのは、「断食」に磨きをかけることだ。今年から新月の日に断食を挙行することにした(まるでイスラム教のラマダンだな)。
 月のパワーを見くびってはいけない。潮の干満が生じるのも月のせいだ。人間がその影響を受けないでいられるわけがない。人間は満ち潮のときに生まれ、引き潮のときに死んでいくらしい。「満月は人の心を騒がせる」らしい。「新月の日に願い事をすると叶えられる」らしい。てなわけでこれからは月のリズムに合わせて私の体に野生が戻ってくる。満月の夜におかしな叫び声が聞こえたらワシが吠えていると思ってくれ。