断食体験報告、その一

(Q)お久しぶりです。いつお帰りになったのですか?


(A) 一昨日(5/11)に戻ってきました。


(Q)すっきりした顔をされていますね。断食はどうでしたか?


(A) 一言でいえばやたらと調子が良かったです。昨年も経験していますし不安はまったくありませんでした。私は以前から「人は食べなくても生きていける」と言っていましたが、冗談のつもりでした。でも今回の経験で半分は本気で言えるようになりました。100%本気で言うようになるとアブナイと思われるかも知れないので言いませんが……。
 人は水と空気と光で生きていけます。人間の主食は水と空気と光です。食べなければ死ぬと思っているのは脳の錯覚です。人間は“飢餓”で死ぬのではなく“飢餓の恐怖”で死ぬのです。恐怖に打ち勝って食べないでいると、そのうち体が光合成を始めるはずです。皮膚が緑色になったりなんかして。


(Q)真面目な顔をして冗談なんか言わないでください。
ところで、何日間道場に籠もっておられたのですか?


(A) 4月22日から5月11日までの20日間です。


(Q)その間、ずっと何も食べなかったのですか?


(A) そんなことはありません。どの断食道場でも回復食の期間をたっぷり取るはずです。
20日間の内訳は次のとおりです
予備断食2日間
本断食9日間
回復食9日間
 断食で大事なのは回復食の期間をできるだけ多くとることです。本断食にかけた日数以上とることになります。本断食の日数をできるだけたくさん取りたいのですが、道場の指導でそうはさせてもらえません。断食のベテランの人たちは「大事なのは自宅に帰ってから」と口を揃えて言います。過食の生活に舞い戻るようではせっかくの断食が元も子もありません。食べないだけなら自宅でもできますが、後始末が難しいのです。
 つまるところ断食は少食の習慣を身につけるための手段と言えそうです。


(Q)予備断食とはどんなものですか?


(A) 本断食に入る前の準備です。食事は小さな茶碗に重湯一杯と梅干し一個。普通の人の感覚では何も食べていないのと同じです。ふだん大食いしている人にとっては予備断食の2日間は短いと思います。できれば自宅で少食を数日間続けてから断食に入った方が良いでしょう。あるいは各個人ごとに指導者が予備断食の期間を適当に設定してくれるかも知れません。


(Q)本断食では何も食べないのですか?


(A) 何も食べません。ただし、水(生水)はたっぷり飲むように指示されます。一日2リットルが目安です。しかし、これがなかなか飲めないのですよ。酒やビールならまだしも水を2リットル飲むのはけっこう大変です。道場が用意するプラスチック製のコップでは水が美味くありません。そこで私は今回“マイ・グラス”を持ち込みました。ここが経験者の知恵です。いいグラスで水をおいしく飲む、大事なことです。一度にたくさん飲むとうんざりしますので、いつもグラスを傍らに置いてチビチビと飲むのがコツです。水のまずいところで断食をやると悲惨です。


(Q)本断食の9日間は苦しかったでしょ?


(A) どっこい。これが爽快なのです。
三日目、四日目あたりで胸やけの症状が出ましたが大したことはありませんでした。八日目や九日目ではいつまでも続けていたいという気分になったほどです。この時期です。「人は食べなくても生きていける」と思うのは。“ランナーズ・ハイ”という言葉がありますよね、それと同じようにこの時期、ハイな気分になります。ただ、“天の啓示”とか“幽体離脱”のような宗教的体験を期待していたのですが、そういうことは何ひとつ起こりませんでした。もっと断食を長くやって肉体を死ぬ寸前まで追いつめないとそういう体験はできないのでしょう。
 体は足元がフラフラして動作が鈍くなります。立ち上がるときも「どっこいしょ」と言わなければ立ち上がれません。それもただの「どっこいしょ」ではなく、念を入れて「どぉっーくぉおーい、しょおおーっ!」でなくてはなりません。「どっこいしょ」は断食中のマントラ真言)です。
朝、寝覚めの時いきなり起きるとめまいがします。散歩で上り坂を上っていくときは息切れがします。地球の重力が3Gになったような感じです。体への影響はせいぜいそんなところです。


(Q)頭が朦朧としてくることはなかったのですか?


(A) 頭は常に冴えておりました。いつもより冴えていたほどです。
受験生が断食をやれば東大合格も夢でないでしょう。私ももっと早く断食を経験しておれば人生が変わったことと思います。ひょっとしたら今頃、国税庁長官になっていたかも知れません。
食事を摂らないと体が自分の体を食べて生きていくことになります。人体の精妙さは驚くべきものです。
 まず脂肪が肝臓に送り込まれそこで糖分が作られ脳に送り込まれます。脳は糖分だけをエネルギーとする器官だからです。次に体に不必要なところから順にタンパク質をアミノ酸に分解して肝臓で糖分が作られ、その糖分が脳に送られることになります。ですから断食中といえど頭が朦朧とすることはありません。言ってみれば断食により体の余計な部分を自分の体が勝手に掃除をしてくれて、それと同時に頭を良くしてくれるわけです。
私は体脂肪・内臓脂肪計を道場に持ち込んで毎日克明に記録しました。最初に内臓脂肪が減少していくのが手に取るように分かりました。体はきれいになるわ、頭は冴えるわ、言うことなしです。


(Q)回復食の期間というのはどのようなものですか?


(A)本断食後のリハビリ期間のようなものです。重湯から始まって三分粥、五分粥、七部粥と徐々に普通食に近づけていきます。本断食が終わりほっと気がゆるむのもこの時期です。でも食事の量は極めて少量・粗食です。「えっ、これだけ?」って感じです。腹が減って仕方がありません。でも、だからこそ、この食事が待ち遠しく、また、ありがたいのです。こころの底から味わって食べていると、いままでの自分が如何にうわの空で食事をしていたかを反省させられます。この気分を味わうだけでも断食をした甲斐があります。


(Q)断食は少食を習慣にするのが目的とのこと。少食を習慣にするのも難しいと思うのですが、なにかコツはありますか?


(A)少食を徹底するには噛んで噛んで噛みまくることです。咀嚼物がどろどろの液状になっても飲み込んではいけません。そのまま噛み続けるのです。そうするとじわ?っと液体が食道から胃に浸透していきます。そう、浸透していく、という感じです。このようにして食べ続けているうちに胃の中は唾液で満杯になります。それに顎の筋肉も発達します。一挙両得とはこのことです。この食べ方を実行すればたくさん食べたくても食べられるものではありません。