家族名義預金

 相続税の税務調査は家族名義の預貯金・株式の調査に終始する。税務署は金融機関から資料を取り寄せ、それをもとに、いたぶってくる。「○年○月○日にご主人の預金口座から奥さんの口座へ○○万円が移っていますねぇ」などと言われると納税者はびっくりする。自分でも忘れてしまったことを、税務署員が指摘するものだから、なにもかも見透かされている、と薄気味悪くなって屈服してしまうのだ。ここが税務署の狙い目だ。……というより、それしか能がないのだ。
◆奥さんは、今までにお勤めに出られたことはありますか?
■いいえ、ありません
◆ご主人から贈与を受けたことはありませんか?
■ありません
◆奥さんの実家から財産を相続されたようなことはありませんか?
■私は何も相続しておりません
◆それでは奥さん名義の財産はないはずですよね
■はぁ?、そういうことになるんですか。
 相続税の調査での典型的な質問だ。奥さん名義の預金を亡きご主人の預金として相続税を追徴しようという魂胆である。
 「奥さん名義の5千万円の預金は、どのようにして出来たか?」とストレートに聞けばよいではないか。「ヘソクリだよ。ヘ・ソ・ク・リ!」ネチネチと外堀を埋めていくような回りくどい聞き方をするな!
 なかには税務署員の姑息な質問にハメられて、相続税を追徴される人がいるのだ。
 奥さんが貯めたヘソクリは奥さんのものだ。堂々と主張してよい。
 旦那がぼぉ〜っとしている夫婦の場合、たいてい奥さんがしっかりしている。奥さんが家計をやりくりして、余ったお金は奥さん名義で貯め込むのが普通だ。頼りない旦那をアテにできないので、自分と自分の子供たちを守るためのお金である。女の人は一旦、自分の名義にした預金はテコでも引き出さない。お金がいるときは旦那名義の口座から引き出して使うのである。だから奥さん名義の預金は貯まる一方で、思いの外、残高が多額になる。おまけに夫婦生活50年ともなれば、その間、高金利の時代をくぐっている。だから5千万円程度の残高は驚くに値しない。
 問題は奥さんがぼぉ〜っとしている夫婦の場合である。この場合、旦那が一切合切、財産の管理をしている。だから、奥さんが知らない間に旦那が奥さん名義で預金をしていることがある。この場合はたとえ奥さん名義の預金でも旦那の財産として申告していなければ追徴される。……が、しかし、これを相続税逃れと言ってはいけない。頼りない奥さんを思う愛情の表れだ。目くじらを立てることではない。
 私は最近、一家そろってぼぉ〜っとしているケースに当たった。財産のことを尋ねても誰ひとり答えることができない。死んだ本人も何も分かってなかったようだ。こうなると“のれんに腕押し”“ぬかに釘”。調査は税務署の完敗だった。(申告書を作成したこちらの苦労も大変だったけどな)
 ここに家族名義預金の税務調査対策のヒントがある。それは度はずれた“ズボラ”と“ボケ”と“ドンブリ”である。なんせ自分たちの財産が自分たちでもさっぱり分からないのだからな。税務署は手も足もでない。スキだらけのようでスキがない。これは秘策中の秘策だ。